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2019.06
Fukushima Meets Miyagi Folklore Project #3『BABEL』
日程 2019年6月15日(土)〜2019年6月16日(日) 会場 秋保の杜 佐々木美術館 仙台市太白区秋保町境野字中原128‐9 出演
野々下孝 渡邉悠生 宮本一輝 蒼井彩乃 佐藤隆太(シア・トリエ) 千石すみれ(三桜OG劇団ブルーマー)
原作 旧約聖書
テキスト 大信ペリカン(シア・トリエ)
構成・演出 野々下孝(仙台シアターラボ)
照明 麿由佳里(シア・トリエ)、宮本一輝
舞台美術 渡邉悠生
音響 永澤大也
宣伝美術 三月文庫
制作 宮本一輝
【劇評】佐々木久善
仙台シアターラボとシア・トリエの合同公演は、前々回に続き美術館での上演である。間に福島の寺院本堂での上演があるが、仙台では、二回連続して、美術館での上演となる。
演劇を劇場ではない場所で上演することは、容易なことではない。照明や音響が仮設となることで、十分な効果が得られないかもしれないし、舞台装置の設営に制限がかかることになるからだ。今回、仙台市の郊外、秋保の杜 佐々木美術館で演劇作品を上演することは、立地の面でのリスクも加わっている。
それでも、そういう場所を選択するということは、その選択に、明らかな意図があるということだ。
佐々木正芳の作品が飾られた美術館。それが「秋保の杜 佐々木美術館」だ。だから、佐々木正芳の作品に対峙する演劇を目指したのがこの「BABEL」という作品なのだ。
残念なことに、舞台の背景に佐々木正芳の作品は、配置されなかったが、佐々木正芳の作品を見ることと一体となった演劇作品と言うことができる。
最初に、テキストを書いた大信ペリカンの前説がある。井上陽水のマネをしながら、歌のランキングを発表し、その第一位が「ミスキャスト」となる。そこで佐藤隆太が陽水風のカツラで登場し、場面を引き継いでゆく。
この「ミスキャスト」という言葉こそが、この作品全体のテーマである。
職場のミーティングの場面では、そこに馴染めない女性の痛々しい恐怖感、社長の息子である男が、演劇をやっているが故にアルバイトの身分で社員との間に違和感を覚える話。これらの場面に代表されるように「馴染めない」「違和感」「ミスマッチ」というものが全編に連なっている。まるで、人間の存在自体がミスキャストであり、ミスマッチを繰り返すことが、人類であるかのように、である。
旧約聖書は、キリスト教の聖典であるばかりでなく、ユダヤ教やイスラム教の聖典でもある。そこに書かれている内容は、ヨーロッパ、アラブを超えて広く世界中に知られている。「天地創造」「アダムとイブ」「カインとアベル」「ノアの箱船」「バベルの塔」と続く物語の中で、人類は間違いを犯す存在と描かれている。
演劇はマスメディアとは違い、極めてプライベートな距離感の芸術である。ありのままの姿を晒しても、観る者との関係を保ち続けることが可能である。
佐々木正芳の作品には人間が描かれている。それも身体を捩っていたり、何処かへ向かっていたりと、行動している最中の人間が描かれている。
ミスキャストである人類の一人ひとりが、日常生活の中で、あがく姿を、聖典の大きな物語と対峙させながら描くことで、個人の悩みや苦しみを、人類全体の問題と呼応させているのが、この作品なのだ。
アフタートークで、野々下孝は、水等を使う演出だったので、作品を保護するために絵画を舞台装置として使えなかったと語ったが、演出を制限してでも、佐々木正芳の絵画と同じ空間と時間の競演を実現してもらいたかったと思う。あるいは、美術館の中を移動しながら観る作品としてもよかったのではないかと思う。それ程までに、この演劇作品には、佐々木正芳の絵画との密接な関係が感じられた。
前説に使われた「ミスキャスト」は、井上陽水が沢田研二のために書いた曲で、アルバム一枚、全て陽水の書き下ろし、編曲はムーンライダースの白井良明なのに、「ミスキャスト」だけは岡田徹が編曲という、不思議な巡り合わせの歌。当時、ムーンライダースと言っても、知る人ぞ知る存在で、沢田研二の編曲をするなんて、思っていなかったので、とても驚いた記憶がある。しかし、この「MIS CAST」がベストの人選だったことは、白井良明のその後の活躍が証明している。
仙台シアターラボも野々下孝に加えて、渡邉悠生、宮本一輝、蒼井彩乃とメンバーも増えて、多彩なアンサンブルが可能になった。その基礎の上に、シア・トリエの佐藤隆太や客演の千石すみれ(三桜OG劇団ブルーマー)との豊かなバリエーションが築き上げられている。
この勢いを保ちながら、十一月の韓国での再演を成功させて欲しいと願っている。その時には、佐々木正芳の絵画も何らかの形で取り入れて欲しいと、併せて願っている。